黄昏と嘘

「すみませ・・・」

「だから・・・もういいと言っているだろう」


どうして彼女が玄関でいたときにちゃんともう一度、ふたりで話をしてほしいと言わなかったのか、チサトは自分のことばかり考えて何も言わなかったことに大きな後悔の念に襲われる。


アキラはもう全てを諦めてしまったのだ。
「もういい」というアキラの言葉にチサトは涙が零れ落ちそうになる。
でも泣いたところで何も事態は変わらない。
泣いてはいけないと思うと余計に涙が溢れてくる。


「それに彼女の再婚の言葉を聞いたとき僕は思ったほどのショックは受けなかった・・・。
むしろ、彼女のためによかった、こころからそう思ったんだ。
ただそう思えたのは・・・」


アキラはそこまで言いかけて言葉を止める。
一体自分は感情に任せて何を言おうとしたのか。
こんな年下の、しかも自分の学生に対して。

しかしチサトはそのアキラが言葉を止めたことに対し、自分の存在のせいでアキラと彼女の別れを決定的なものにしてしまったのだと理解した。


先生に「別れ」を確信させてしまったんだ。
私は先生を傷つけてばかりいる。
もう・・・ここにはいられない。
ここにいる以上、私は先生の毒になってしまうだけで傷つけてしまう。
どんなに私が一緒にいたいと望んでも。


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