黄昏と嘘

アキラはゆっくりとチサトの前で立ち止まる。
うつむいていたチサトはそのアキラの足下が目に入り、ゆっくりと顔をあげる。

そこにはうっすらと汗をかき、何か焦った様子のアキラが立っていた。


先生っ?!
どうしてここに先生がいるのっ?!


やっとチサトはアキラの存在に気がつき、急にバクバクとし始めた心臓が口から出そうなほど驚き、ハッとして立ち上がった。
アキラのほうは、何から話せばいいのか、ただメモを見て走ってきただけで何も考えてはおらず、言葉が出てこない。
伝えなければならないことがあるはずなのに。

一瞬の沈黙の後、チサトは近くに置いていたキャリーケースの取っ手をぎゅっと握り、引きながら慌てて逃げだす。
どうしてアキラがここにいるのか、そんなことを考えながらもただ必死だった。

「あ、・・・おい」

「すみません、通してください!」

そう言いながらチサトは慌てて人ごみの中を縫うようにして逃げる。
こんなところでアキラに会ったらせっかくの自分の決心がくじけてしまう。

息を切らして売店の影に駆け込んで胸に手を当てて気持ちを落ち着かせ、そっと後ろを振り返る。
あまりの人の多さに一瞬でもう、その人影はわからなくなっていた。
よかった、チサトはそう安堵するけれど、どうしてアキラがここにいるのか、頭から離れない。

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