黄昏と嘘
チサトはびっくりして自分の後ろを確認する。
そこにはチサトの憧れる、小野 アキラがいて、無言のまま彼の腕を掴んで睨みつけていた。
そして彼は必死になってアキラの腕を振り解き、その腕をさすりながら言った。
「お…俺、帰るわ。またな」
さっきの勢いづいた声とは全く違い、小さな声でそう言った後、あっという間に彼女の元から走り去った。
チサトはそんな彼を呆然と見送る。
それは本当に一瞬の出来事だった。
「……何をやって……?」
一体、自分の周りで何が起ったのか、振り返ったままの姿勢でぼんやりと再びアキラの方を見る。
自分の前にアキラがいて、それはちゃんとチサトの視野に入っていたはずだ。
なのにそれが小野アキラだと理解するまでに少し時間を要した。
それはいつも学校で会っているはずの人間とこんな意外なところで出会ってしまったからか。
「おい」
さっきより少し大きな声でチサトに声をかけたところでビクッと肩を震わせてやっと彼女は我に返る。
ああ、どうしよう、やっぱり小野先生だ……。
こういう状況で彼はいつもよりも厳しい顔をしていたが、彼もまた自分の目の前にいる人間がチサトだとわかると今度は少し驚いた表情に変わった。