黄昏と嘘

チサトは彼を怒らせるつもりなんて毛頭なかったのでアキラの態度には軽くショックを受けた。
そしてこれ以上彼に何をどう言ったとしても感謝の気持ちなど伝わることはないと悟り、無意識にだんだんとううつむきがちになってしまう。

アキラはそんなチサトを見ても今の態度を改める気もなかった。
なんの感情もわくこともなく、なんとなく遠くからもうひとりの自分が彼女を傍観している、そんな感じだった。

「……さっさと帰りなさい」

いつまでもそのままでいるチサトにようやくアキラは口を開き言った。
チサトは顔をそっと上げるけれどそのまま視線を逸らしてゆっくりまたうつむく。

帰りなさいって言ったって……。
……ああ、そうだった、私、さっき石田さんと別れたところだったんだっけ。
帰ってももう誰もいない、それに住むところがもうすぐなくなるんだった。

チサトは思い出すと急に心細くなった。
しかしアキラはそんなチサトの思いも知らず、背を向ける。

だからさっきあんな男の声かけにも乗ってしまったんだ。
私の新しい住所、またなくなったんだ。
つまり、フリダシに戻ってしまったってこと。

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