エチュード ~即興家族(アドリブファミリー)~
「えーっとそれから。新城英雄(えいゆう)さんって人が、もう少ししたらそっちに来るはず」
「英雄は俺の兄ちゃん。アキちゃんは一度兄ちゃんに会ったことあるよな?」
「あ・・あ、うん」

善が適合検査をしに東慈恵病院へ行ったとき、「善は最優先で」と指示してくれた人だ。

「イオと伊吹ほどじゃないが、俺と似たような顔してるから、見りゃ分かると思う」
「え?俺は双子だが二卵性だし。いぶはメガネかけてっし。俺の方が背高いし。そんなに似てねえよ」
「いやぁ、意外と似てるよ?イブちゃん、よくイオちゃんに間違われるって言ってるじゃん」
「あぁ?そっかぁ?」
「まーまー。そういうことで伊吹には頼めなくて、姉ちゃんは育児中で、赤ちゃん連れて報道陣の中には行かせたくないから、兄ちゃんに頼んだわけだが」
「何、を?」
「うちの別荘の鍵。今兄ちゃんがそっちへ持って行ってる。たぶんもうすぐ着くと思うんだが。とにかく、兄ちゃんがそっちに着いたらすぐ移動できるように、持って行くもの用意しといて」
「え?えっと・・・」
「とりあえず1週間分。ただ別荘には洗濯機あるし、食料も十分あるから、そんなにたくさんの物は必要ないはず」
「わ、かった」

なんか・・・この4人にかかると、どんなに深刻なことでも、大したことないって思えてくる。
適合検査の時もだけど、彼らの迅速な判断力と決断力、そしてハイスピードな実行力に・・・前は「とてもじゃないけどついていけない」って思ったけど、今は「ついていくしかないのよね」と、穏やかな自分の心の中心部分が判断しているのが、自分でも分かる。

これが「腹をくくった」状態なのかしら。
と思ったら、私の顔には笑みが浮かんでいた。

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