銀座のホステスには、秘密がある
「末永さん。どうですか?この娘の美しさ。お市もこれくらい美しかったんじゃないでしょうか?」
「誰ですか?」
「お市ですよ。信長公の妹の。戦国一の美女と言われてるお市ですよ」
「あー」

あ、毘沙門天先生、引かれてる。

「サラ、こちらの末永さんは今度お世話になる方なんだ。めいっぱいもてなしてくれ」

接待ってことですね?
了解しました。
「はじめまして。サラでございます」

今日はハナちゃんがヘルプについてくれた。
ハナちゃんを預かってから同伴がないときは必ず早く来て、二人で練習を重ねた。
水割りの作り方、乾杯の仕方、お客様の名前の覚え方まで……
まだまだ教えなきゃいけないことはあるけど、なんとかここまで来れた。
最近の目標は、指名をいただくこと、らしい。

「上杉君のね、戦国好きは有名なんだよ」
「昔、ラジオでそうおっしゃってました」
「あー。そうだったね。上杉君は、前はラジオの方にいたんだったね」

末永様に振られて、毘沙門天先生は「そうです。良くご存知で」と大げさに喜んでいた。

「毘沙門天先生とおっしゃってましたね」

その名前を出すと、毘沙門天先生はおでこを触る。
もしかしたら照れてるのかな……

「へぇ。上杉君。随分豪勢な名前だね。私もそんな名前で呼ばれてみたいよ」
「いえ。上杉謙信公からの連想で、付けられたあだ名ですよ。サラ。それは秘密だろ」

笑いながら視線を送ってくる毘沙門天先生。
ナイスパスって顔だ。

「末永様のことは何とお呼びしたらいいですか?」
「いや。私はいいよ。そんなのは」
「きっとお似合いの名前があるはずですよ」
「いやいや。そう。でも、もし叶うなら、私はね、海賊になってみたかったんだよ」
「海賊?では、船長?ううん。キャプテンですね」

「キャプテン末永。一緒にお宝探しに行きましょう」
毘沙門天先生が大声で叫んだ。
この人、一々リアクションが大きい。
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