銀座のホステスには、秘密がある
キャプテン末永が席を外すと、毘沙門天先生の笑顔は一瞬で消えた。
無理して明るいキャラを演じてると分かる。
なんだか少し可哀想になってくる。

「毘沙門天先生。水割りでいいですか?」
「あ?あぁ、そうだな」

宙を見つめる毘沙門天先生のグラスを引き寄せ水割りを作る。
今だけはそっとしておいてあげたい。

「なぁサラ。その毘沙門天先生ってのはやめてもらえないか?」
「え?ダメでしたか?」
「ダメってわけじゃないけど、俺じゃない気がするな」

カランと氷を回して、グラスを滑らすように置く。

「では、なんとお呼びしましょうか?」
「普通でいいよ」
「キャプテン?」
「それはかぶってるだろ」
「ぅふふ。じゃ、謙信?」
「謙信公を呼び捨てにするな」
「ふふ。じゃ、殿様?」
「あー。それはいいなぁ。一度でいいから殿になってみたかったなぁ」

つぶらな瞳が更に細くなった。

どことなく憎めない顔立ちとか、
無理して浮いちゃうとことか、
上杉様を見てると充伸を思いだす。

「じゃ、殿って呼んでもいいですか?」
「いやー。恥ずかしいからやめてくれよ」

「はい。殿。あーんして」

チップスをつまんで口元に持っていった。

なぜだか分からないけど、
なんとなく“エサ”をあげたくなった。
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