銀座のホステスには、秘密がある
すごくよく通る声の男の人が、殿の後ろに立ってた。

「おー。松下ー。あれ?今日は誰と?」
殿がその男の人に親しげに振り向いている。

ほらね。一瞬でも期待するとこうなるんだ。
デートじゃないって思い知らされる。

アタシは殿のお友達に微笑んで会釈した。
こうなったら銀座の女をやりきるしかないじゃない。

「君。キレイだねー。モデルになるつもりはない?事務所紹介しようか?」
「松下やめてくれよ。サラは俺の癒しなんだから」
「え?なになに?上杉ちゃんの彼女?マジで?どっかのお店の娘でしょ?」

お店の娘で悪いか!
お店の娘は殿の彼女になっちゃダメって言うの!
って、喉元まで出かけた言葉を飲みこんだ。

「いいだろ、そんなことは。まっつん、今日は収録?」
ん?まっつん?
どこかで聞いたことあったような……

「もちろん録ってきたさ」
「お疲れ。あ。そうそう、サラもあの番組聞いてたんだよな?」
「あの番組?」
「ファンキー・ナイト・スクール」

それは高校の頃、充伸と一緒に夢中になって聞いてたラジオの番組名で、

「あ!まっつん教頭」
馬鹿笑いしすぎてヒーヒー言ってたラジオの兄さん達。

「あー。なになに?聞いててくれてたの?」

自然に口から出た当時のラジオパーソナリティの名前に、目の前の業界人は嬉しそうに笑った。
「今は、校長に昇格したけどな」
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