銀座のホステスには、秘密がある
「実は、お願いがあるんだけど。そろそろ彩乃さんを独り立ちさせてもらえないでしょうか?」

しっかりと聞こえてるはずなのに、チラリとアタシを見たママは、何も言わないでコーヒーをフーフーして一口飲んでる。

「……なんで?」

たっぷり取られた間。
その無言の時間が、アタシがワガママを言っているような雰囲気を醸し出してて、
「もう、彩乃さんも移ってきてひと月以上立つし……」
声が小さくなる。

「うん。それで?」
「アタシなんかが教えること何もないって思うんだけど……」
「なんか、って言うのは止めなさい」
「はい。でも本当に教えることはもうないの」

今だって大したこと教えてない。
一緒にテーブルにつくか、アフタ―を一緒にするか、それくらいしかやってない。

カチャリと音をたてて、ママが持ってたコーヒーカップをお皿に戻した。

でも、もう殿と彩乃さんが見つめ合ってるところを見るのはイヤなのよ。

ゆっくりとした動作で、ママがこっちを向いた。
アタシはもうママの目を見られない。

「そうかしら?あたしはそうは思わない」
「え?」
「彩乃ちゃんにはもっと強くなってもらいたいのよ。次の世代を任せられる人として」
「どういう意味?次にNO.1になるのは彩乃さんだと考えてるの?」
「そうかもしれないわね」
「どうして?樹里がいるじゃない。愛ちゃんだっているし、他の娘だって頑張ってるのに」
「愛ちゃんはいずれ就職したら辞めてくわよ。樹里はNO,1って器じゃない」
「アタシは?もうすぐアタシの時代は終るって言いたいの?」

思ってもみなかった。
たくさん頑張ってるのに、NO,1から下りる日がこんなにすぐだったなんて。
何がいけなかったの?
足りないならもっと努力する。
休みもいらない。
毎日だって出勤する。
毎回同伴だってできるように営業する。

「ママ。アタシ……」

「サラ。あなたに、あたしの後を任せたいの」

「……へ?」
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