ユウウコララマハイル
カケルは一度もハルに会ったことはない。
それは中村も同じだ。
しかし中村はマスターから聞いたハルの人物像で、ハルとカケルの手先の器用さは同等だと判断したようだった。


ハルの作れるものはカケルも作れる。
カケルの作れるものはハルも作れる。
ふたりが作ったものには奇跡が起こる。
いくら“よいことが起こった”と聞かされても、自分の実感がないのだから、中村の言うことを鵜呑みにはできない。


俺が栞を作ったとしても、同じような幸運に恵まれるわけないだろ。
世の中には偶然で片づけられる事象が多いのだから。


でも、引き受けたからには、精一杯やる。
それだけは揺るがない信念だ。


カラカラに乾燥させたクローバー、台紙になる厚紙、常盤色のボールペン、空色のリボン、ラミネートフィルムなどをテーブルの上に規則正しく並べる。
そうしてから手をあわせ、心の中で念じる“いいものが作れますように”と。


「さぁ、楽しい時間の始まりです」


最初から台紙の裏に書く文字は決めていた。


『ヨシトイネオコシ』


意味は“長生きする”


長生きしますように。


そう願いながら、一字一句彫るようにして紙に書く。


一種の儀式のようなこの方法を教えてくれたのは、数年前に他界した祖母。
正確には祖母から譲り渡された手記になる。
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