恋愛ドクター“KJ”
 「あのね、アスカ。人の行動に“偶然”や“何となく”なんてないんだよ。そこには必ず理由があるんだ。
 もちろん、アスカがグーを出したのにも理由はあるよ」
 声の感じも口調もやさしいままのKJだが、その話し方には、揺るぎないものが溢れている。

 「理由? 理由って何よ?
 KJが言うみたいに何か理由はあるかもしれないけど、そんなの神様じゃなければ分りっこないでしょ。人間になんて分らないわよ。
 だったら、それって“偶然”や“何となく”ってことでしょ。
 ちがう?」
 アスカの反論は間違ってはいなかった。

 仮に何らかの理由があったにせよ、それを誰もが納得できるレベルで説明できなければ、結局は、理由はないのと同じことになる。
 分らないのものは証明もできない。

 「アスカ、もう一度繰り返すけど、人の行動に“偶然”なんてないんだ。
 アスカがグーを出したのには理由があるんだ。偶然じゃない。
 じつは、あのグーは、僕がアスカに出させたんだよ」

 「‥‥ ‥‥」
 「‥‥ ‥‥」
 
 アスカも一也も、文字通り言葉を失った。
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