明日晴れるといいね!
19
 数日後涼子が再び訪れた。
 「さて、練習の成果をお聞かせ願いましょうか」

 「そんな~、お聞かせするほどのものでは」
 ジュースの中の氷がカタカタとなった。美和は先日習ったコードを引いて見せた。

 「な・なんで。完璧ジャン。後はそれの組み合わせだから歌にあわせてスムーズにコードを押えるだけだよ」
 「ありがとう。もっともっと頑張ってうまくなります」

 「しかし覚えが早すぎるよ。先生を追い越すの早すぎない。じゃあ今日はストロークプレイとアルペジオね」
 「あ、はい」
 難なくこなす美和。
 
「やっぱあんた凄いわ。もう教えること無いって感じ」
 「涼子さんのように情感込めて歌えるようになりたいの。一緒に歌えるくらい」
 「まあそれは十年早いっていうか。ああこれもなんかの縁だ。いいよ。何年でも付き合うから」

 「そうこなくっちゃ。」
 二人は顔を見合わせ微笑んだ。

「じゃあ、代わりといってはなんだけど次は因数分解のお勉強」
 「えっ、ほんとにやるの?」
 「もちろん」

 そういうと美和は数学の教科書を引っ張り出した。
 「しかし、なんでこんなひち面倒くさいことすんのかね。掛け算なら掛け算でいいじゃんかよね。頭ん中が分解しそう」

 「文句いわない。そもそも因数って何かから知らないとこの問題を解く意味って言うか考え方が分からないよね」

 そういうと美和は説明を始めた。完全に立場が逆転してしまった。
 涼子にとっても、そもそも学校が嫌でやめたわけではない。

美和とする勉強はまた新鮮で雑談を交えながら、分からなければすぐに質問できるという気楽さが、涼子の理解力を深めた。
 「凄い、涼子さん。もうこんなにできちゃったよ」
 
「なんか前にも聞いた台詞だけど、先生がいいから」
 「いえいえ、涼子さんの実力よ」
 
「いくら褒めてもなんもでないよ。でも結構面白いもんだな、数学って」
 「でも、まだまだ先は長いから。じっくりやりましょ」
 「だな、ギターも弾かなくっちゃいけないし。じゃあ宿題にこの曲練習しといてよ」

 そういって涼子は「いい日旅立ち」という曲を選んだ。そう、いまここから明るい未来に向かって歩き出そうという涼子の配慮でもあったろうか。
 
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