恋する淑女は、会議室で夢を見る

礼は言っても、視線を上げることは少ない専務なのに
どういう訳だか真優を見つめたまま、
ゆったりと椅子に背中をあずけている。


居たたまれずに
「なにか?…」と聞くと

「明日の夕方からパーティがある
 また同行してもらおうかな、と 思ってね」
と専務が言う。


「はい わかりました
 どんなパーティなんですか?」


「M&MのCEOの誕生日パーティ」




「ウソ」

クスクスと笑った専務は

「U社の社長が交代しただろう?
 就任記念のパーティ」

だと言い直した。



「… はい わかりました」

ムッとしてそう答える真優を
何か言いたげに見つめながら、桐谷専務は珈琲を手に取った。

「…あの
 他に何かご用は?」

頬を膨らませながらチラッと専務をみると、

「別に」

専務はそう言って肩をすくめてみせる。


「では…失礼します」


ドアを開けて
部屋から出る前にチラリと振り返ると
書類に目を落としていた桐谷専務は、ふと視線を上げて真優を見た。



慌てて専務室から出た真優は
そそくさと自分の席につき
パソコンに向って ため息をついた。



…もぉー
 どうせ ”恋愛禁止”って言いたいんでしょ


ムッとして頬を膨らませながら
真優はカタカタとキーボードを打ち始めた。


―― とっくの昔に終わった恋ですよーだ



そう… 今はもう、ただの先輩と後輩だから…
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