恋する淑女は、会議室で夢を見る


窓ガラスの向こう側では
暮れなずむ夕闇が、沈む太陽や付き始めた街灯や車のヘッドライトなど
様々な光を反射させ煌めいている。

店内では、静かに流れる甘いジャズ。

それらの全てが、
間もなく訪れる恋人たちの夜を、これ以上ないほどロマンチックに演出している。



そして
その演出が盛り上がれば盛り上がるほど

真優の心を動揺させていた。



「秘書の仕事は慣れたの?」

「ぁ… はい!
 なんだかんだ言う割には、専務って結構優しいから」


「桐谷専務はどういう人なの?」

「… えっと
 そうそう 最初はね”どうして化粧をしないんだ?”って」


何しろ会社で、真優が話をするのは電話の取次ぎを除けば
桐谷専務と瀬波くらいだ。

仕事の話は情報漏えいの問題もあって言えないことも多いが
桐谷専務個人の話ならいくらでもできる。


「厳しい人なんだ」

「うーん
 厳しいには厳しいんですけど
 ちゃんとフォローしてくれて…」





一度、打ち合わせの場で、真優が青木の令嬢だという話になり
相手先の社長に、『社会勉強ですか?』と聞かれたことがあった。
言った本人には悪気がないのかもしれないが、真優は心の中で顔をしかめ
あやふやに笑ってやりすごそうとすると
桐谷専務が
『彼女は優秀でしてね』と、横から口を出し
真優の持っている資格一つひとつを挙げ、聞いている真優が恥ずかしくなるくらい褒めた。

実はその日も書類のミスをしたばかりだったので
帰りの車の中で
『代わりに今度入力ミスをしたら お尻100叩きの刑ね』
と睨まれたが、それはまた別の話である。

とにかく、それがどれほど嬉しいことだったか
嬉々としてマー先輩に聞かせた。


… ただ


桐谷専務のことを話す時の
その言葉や笑顔が、白木匡の心に潜む嫉妬の炎を煽りに煽っていることに
真優は気づいていなかった…。
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