恋する淑女は、会議室で夢を見る


*...*...*...*...*





「こんにちわ秘書さん」

廊下から顔を覗かせたのは、P社の秘書でもある社長令嬢だ。

「こんにちわ」

「ほんの少しだけどお土産
 秘書のみなさんで召し上がって」

令嬢はいかにも高そうなチョコレートの包みを真優の机にトンと置いた。

「ありがとうございます」


初対面の時、このP嬢(真優がつけたあだ名)は
足の先から髪の先まで、真優の全身をくまなくチェックするように目を走らせた。

そして取るに足らない存在だと結論つけたのだろう。
勝ち誇ったようにニヤリと口元を歪め
『歴史のない家のお嬢さんは大変ですのねぇ』と意味深なことを言った。

P嬢はその時からずっと真優の天敵である。


今日も相変わらずの天敵らしく、P嬢は薄い冷笑を浮かべながら
「暇そうね」
と、言う。

真優は真面目に答える気も起きず、
「今日はおひとりですか?」
と、質問で答えた。


「ええ、桐谷専務に資料をお届けにね」

「お預かりしますが」

「ご心配なく
 ”重要資料” なので、直接お渡ししなくちゃいけないのよ
 専務は社長室にいるから来てくれって言われてるの」

廊下へ出たP嬢はいつものように勝ち誇った笑みを浮かべて、奥へと進んでいった。



―― ったく

P嬢の甘ったるい香水の残り香が鼻につき、真優はピッと換気扇のボタンを押した。


―― 忙しいんだっちゅーの



仕事は次々と瀬波や社長秘書のケリーが持ってくるので、暇なわけではない。
現に今のいままでPCに向かって真剣な顔でキーボードを打っていたのは、P嬢だって見ていたはずだ。

でも、痛いところを突かれたように胸がチクッっと疼いた。




社長が来てからこの10日余り、
桐谷専務はほとんどを社長室で過ごしている。

そして真優はその場に呼ばれることはなく、ずっとここで1人だ。


… ハァ



雑務に追われ忙しくはあっても、置いてきぼりにされたような寂しさを
真優はずっと、胸に抱えていた…。


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