恋する淑女は、会議室で夢を見る



ため息まじりにPCに向かうと

ガラス越しにケリーが歩いてくるのが見えた。

カチャ と静かに扉を開けて
「お願いします」
流暢な日本語で爽やかな笑みを浮かべて真優に書類を渡したケリーは
入ってきた時のように静かに扉を閉めて戻って行った。


ケリーが持って来たのは専務決裁の済んだ稟議書たち。
首を長くして待っている社員もいるだろうと、真優は仕事を中断することにして立ち上がった。




社長の帰国についてきた秘書は2人いる。1人は社長の右腕と言われている第一秘書の津川。もう1人はケリーというアメリカ人の女性秘書。
物怖じせずテキパキと仕事をこなす様子は臈たけたベテラン秘書のようだが、
見たところ歳は若く、もしかすると自分とさほどかわらないかもしれないと真優は思った。
スラリと背が高く、後ろで一つにまとめた髪はブラウンで、瞳は深いエメラルドグリーンをしたかなりの美人である。

社長にはいつも津川と秘書課の課長と瀬波がついているが
ケリーは最近、桐谷専務と一緒にいるところを見かけることが多い。
廊下を歩いている時も、専務の横に立って指示を仰いでいることが多いし、
ついさっき届け物があって社長室に入った時も、ケリーは専務と書類を見て話をしていた。


それがまた絵になるのだ。

身長160センチの真優よりもケリーは10センチくらい背が高いので、専務と視線の合い方が傍目にもちょうどいい。



今朝、通勤途中同期の高橋に

『あのアメリカ美人は社長が連れてきた”専務の”秘書?』

と聞かれたが、真優も同じことを思っていた。





結局酔って送ってもらったお礼を言うどころか
この10日間、専務とは両手で余るくらいしか話をしていない。


中途半端なままのマー先輩との関係…

専務に『君には100年早い』って叱ってもらいたいのにな…


ギロリと睨む専務を思い出して、真優はクスッと笑った。



――でももう、専務に私は必要ないかもしれないな…
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