恋する淑女は、会議室で夢を見る


・・・




「失礼します
 珈琲をおもちしました」

「はい」


返事を聞いて中に入ると、桐谷専務は上着を脱いでハンガーにかけているところだった。



――部屋も生き物なんだなぁ

主を迎えた専務室は空気まで嬉しそうに浮き足立っているような気がして、真優の頬も思わずニンマリと緩む。

珈琲を専務のデスクのいつものところに置くと、
真優は

「ものすごくお久しぶりですね、専務」
と言いながら、桐谷専務を振り返った。


ガタッ



「専務!?」

真優が振り返った時に聞いた音は
桐谷専務がふらつく体を支えるようにして、ロッカーの角を掴んだ音だった。

専務は俯いて片手を額にあてている。


「大丈夫ですかっ!」

駆け寄った真優が、専務を支えるように手を伸ばすと
ロッカーに掛けた手を真優に移し
桐谷専務は自分の体を預けるようにして真優を抱きしめた。


「…専務?
 お医者さま呼びましょうか」


「…大丈夫 寝てないだけだから」

真優の髪に埋もれるようにして、囁くようにそう言う専務の息が
サワサワと真優の耳をくすぐったが、今はそんなことを気にしてはいられない。

ソファーに移動して横になってもらって、と思ったが
そのまま動く様子をみせない専務に
真優はどうすることもできず、ただ専務の体を抱きしめていた。


「…」



長いような短いような数分が経ち

「サンキュー もう大丈夫」と言って
真優から体を離した桐谷専務は、しっかりとした足取りでデスクの隅に置かれた珈琲を持ち
応接セットのソファーに腰を下ろした。



「…専務 ほんとうに大丈夫ですか?」

「大丈夫
 君の顔を見たら、眠気に襲われただけ」

「…」


「20分したら起こして」
と言って、桐谷専務は長ソファーに横になった。
< 166 / 210 >

この作品をシェア

pagetop