恋する淑女は、会議室で夢を見る
「そもそも あの子供は仕事は出来るのか?」
仁にそう聞いたものの、感心があるのかないのか
出来立ての珈琲を飲みながら、遥人は腕時計を見る。
次の会議まで時間に余裕はあった。
「真優はあれでなかなか優秀だぞ
フランス語にドイツ語 北京語も話せたし」
「令嬢なら当然だろ」
「まあな
でも、あいつの強みは別のところにある」
「・・・」
「本人自覚してないが
あいつの情報収集力はすごいぞ
この会社のことは何でも知ってるんじゃねぇのか?
どうでもいい噂話から
驚くようなことまで知ってるよ
取引相手とも、そこの女子社員といつの間にか仲良くなってたりな」
「どういうこと?」
「ほら、あの調子でチョロチョロしてるだろ?
で、あの通り色気がねぇだろ
だから女受けがいいんだろうな
入社して数か月であらゆる課の女と”お友達”になってたよ」
「…」
「それに結構口が堅くてな
それで信用もされるんだろう
色んな話を拾ってくるらしい
詳しい事は絶対に言わないが
真優が『あの人は絶対におかしい』って言った奴は
後になって、なんだかんだと不正が発覚したり…
ほら、先月クビになった経理の男が、いただろ?」
「ああ、話は聞いてる」
その時、遥人はまだNYにいた。
「あれも、会社で気づく随分前から真優は騒いでた
『あの人は絶対におかしい』ってな
あんまり言うから、俺もそれなりに探ったが何もわからなかった
で、
あの男がクビになった時に、あらためて真優に聞いたんだ
どんなに聞いても、あいつはなかなか言わなくて
なだめすかして、ようやく聞き出したんが
あの男の下で働いていた派遣社員の女が気づいたんだと
男はその女を脅迫したそうだ
派遣会社にあることないこと報告するってな
派遣会社からしたら うちはいい顧客だろ、
その子は結局うちを辞めたそうだよ
口止め代わりにあの男にセクハラされてな
それが去年の年末のことだ」
遥人が無言で瀬波を振り返った。
「派遣社員のことは初耳です…
不正発覚は、確か正月明けに匿名の封書が
直接桐谷家に届いて…
――では あの封書は」
「話をしながら、真優は泣いてたよ
真優と辞めた子の後に来た派遣社員の子で、証拠を集めたってな
それを当事者だった元派遣社員と真優の2人で、郵便局に出しに行ったそうだ」