恋する淑女は、会議室で夢を見る
「そういえば真優
香取さんも言ってたけど
真優が時々淹れてくれるあの”特別珈琲”が飲めなくなるのは
すごく残念だわ」
「え?
あはは あれですか」
真優は時々、家から挽き立ての珈琲を持ってきて
珈琲好きな香取女史や華子先輩に淹れてあげていたのだ。
・・・
華子先輩と、しみじみそんな話をしてから1時間後
挨拶がてらにお酒を注いで回っていた真優は
ようやく氷室先輩の席に辿り着いた。
飲み会での氷室仁の席は大体決まっている。
部長や課長の席の近くで、
その両脇には必ず男性社員がいる。
時には先に座っている後輩に席を譲らせたりして
隣が女性という席には、絶対に座ることがない。
それは真優が入社する前から、変わらない習慣だった。
そんな氷室仁に、想いを寄せる女子は多いが
彼のその頑なな態度から発せられる ”近寄るな” という結界を破る勇気は、
誰もなかった。
眉目秀麗、知勇兼備
遠くから、溜息をついて見るだけの高嶺の花。
それが氷室仁なのである。
そして今日も
真優の憧れの氷室先輩は
相変わらず男性社員に囲まれていた。
「失礼します」
と、ビール瓶を片手に真優がひょっこり顔を出すと、
氷室先輩の隣にいた真優の同期の高橋君が
「どうぞ」
と、真優に席を譲った。
「ありがとう」
隣に座った真優に
氷室先輩がニッコリと微笑みかける。
その微笑みを、沢山の女子がうっとりと見惚れていることに
真優は気づかない。