恋する淑女は、会議室で夢を見る
・・・



コンコン

「珈琲をお持ちしました」

「はい」



「失礼します」

カシャ

静かにドアを開け

初日に『ここに置いて』と言われた通り
机の左の端にあるコースターの上に珈琲カップを置く。


「ありがとう」


顔は上げないけれど
専務は必ず”ありがとう”の言葉を添える。

営業部にいた時、時々部長に珈琲を出す機会はあったが、
お礼を言われた記憶はほとんどない。

それについて、真優は別になんとも思ったことはなかったが
こうして必ず礼を言われると、なんとなく気分のいいものである。



…それに



専務が視線を落としているのが書類じゃなくて
経済新聞であることを確認すると

「専務」

真優は声をかけてみた。


「ん?」


「専務は右利きなのに
 どうして机の左に珈琲を置くんですか?」

桐谷専務は顔をあげると

「ご覧の通り重要書類は、
 右側にあるのでね」

と答えた。


「なるほど

 失礼します」



ペコリと頭をさげて、部屋を出た真優は
満足そうにニンマリと口を結んで
トレイを棚に置き、自分の席に座った。
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