残業しないで帰りたい!

車の中で香奈ちゃんに言った。

「香奈ちゃん、アンタの面倒は私が見るから、安心しな」

「……お父さんに頼まれたんですか?」

「それもあるけど、これも縁だから」

「縁?」

私は自分の責任感と消えない罪悪感に「縁」という名前を付けることにした。不思議と「縁」という言葉を口にすると気持ちが楽になるような気がした。

「私はね、愛はなくても情はあるの!だから安心して」

私の言葉を聞いて、香奈ちゃんは急に大粒の涙をポタポタ落として泣き始めた。

香奈ちゃんがこんな風に激しく感情を表に出して泣くのを初めて見たから、私はギョッとした。

香奈ちゃんも不安だったんだ……。

この子は、自分は間違いなく捨てられると思っていたんだろう。

大きな声で泣く香奈ちゃんが、初めて普通の子どもにみえた。

あー、そっか。

あの違和感、あの気持ち悪さ。

この子は自分の気持ちを表に出さない。いつも相手の様子を観察して相手に合わせていた。

そういう意味で、香奈ちゃんはあまり子どもっぽくなかった。

だから、気持ち悪かったんだ。

いつも大人に合わせて、気を遣って。
まるで子どもの形をした大人みたいだった。

香奈ちゃんが大泣きして普通の子どもだとわかって、私は少し安心したのかもしれない。
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