残業しないで帰りたい!

とりあえず、コソッと車の影に身を隠す。
みんなで息を潜め、少しだけ顔を出して様子をうかがった。

「大塚、あの子と付き合ってんのかな?」

「いや。係長、彼女いませんよ」
「大塚係長、ずいぶん前からあの子のこと、狙ってたみたいです」
「今は告白してるってとこですかね?」

「ふーん」

告白ねえ。
大塚、勇気あるなあ。

俺なんて、あれからずっと青山さんのことを遠くから眺めてるだけだ。
とてもじゃないけど近付けない。

彼女を遠くから眺めては、可愛いなあってにやけたり、自動販売機で飲み物を買ってるのを見かけたら同じ飲み物を買って、あ!これ美味しい、とか思ったり。

俺のパソコンは全社員の勤務状況がわかるようになっているから、彼女の出社と帰社の時間をチェックしたり。

……俺って、もしかしたらストーカー気質なのかもしれないなあ。

それにしても、大塚の相手が青山さんじゃないってわかったから、もういいや。戻ろう。

「なんとなくわかったから、もう俺帰るよ」

「は?なに、そのマイペース」
「これからじゃないですか!」
「見届けなくていいんですか?」

「まあ、状況はわかったから」

「えー?」
「はあっ!?」
「なんでー?」

そんな会話をしていたら、だんだんみんな声がデカくなってきて、さすがに大塚の相手の女の子に気が付かれてしまった。

驚いて目を大きく開けると、両手で口元を覆う女の子。
振り返って、信じられないと驚愕の表情をする大塚。

「あ、邪魔しちゃった?ごめんね。俺たちもう戻るから、続きをどうぞ」

隠れていた車の影から出て「さあどうぞ」って手のひらを差し出してそう言ったけど、驚いた女の子は走って逃げてしまった。
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