残業しないで帰りたい!
慌てて後ろ向きになってシートにしがみ付き、母親の実家を見た。もしかしたら、母親が出て来るんじゃないかと思って。
でも、母親が外に出てくることはなく、あっという間に母親の実家は遠くなって曲がり角で見えなくなった。
結局、母親の姿を見ることはできなかった。
そして、「もうお母さんじゃないんだ」っていう親父の言葉も胸に刺さった。
「心配かけたんだ。帰ったらお母さんに謝れ」
「……」
里美さんはお母さんじゃない……。
どうして里美さんのことをお母さんなんて呼ばなきゃいけないんだ!
僕のお母さんはお母さんだけなのに!
後部座席にうつぶせに寝転んで、シートに顔を埋めて突っ伏した。途中、急ブレーキで床に落ちたけれど、気にせずそのまま床に突っ伏して帰った。
僕のお母さんはお母さんだけ。
そのはずなのに……。
お母さんは扉を開けてくれなかった。理由も何も聞かず、ただ帰れとしか言わなかった。
……ヒドイよ。
お母さんは僕のこと、もう嫌いなんだ。
僕はいらない子なんだ。
どんなに僕が思っても、お母さんにはもう何も伝わらない。
お母さんは僕を捨てたんだ……。
僕は捨てられる程度の存在なんだ。
愛されることなんて、ないんだ。
車が千葉の家に着いた頃には、もう何もかもを諦めた気持ちになっていた。
愛すると裏切られて傷つく。
もう傷つきたくない。
もしかしたら俺はこの時、心をどこか奥の方にしまい込んでしまったのかもしれない。
この時から、俺の目の前を流れる出来事は自分とは関係なく、まるで映画を見ているみたいに他人事だった。
奥に隠れたままの俺の心は、傷つくことはなかったけれど、成長もしていなかったのかもしれない。