残業しないで帰りたい!

「シャキシャキ歩け!」と親父に引きずられるようにして家に帰ると、親父の再婚相手、里美さんが泣きそうな顔で玄関まで走って出てきた。

「翔太くんっ!無事で良かった……。心配したんだよ?」

僕の心は全然無事じゃない。
そもそもアンタが来たからお母さんは出て行くことになったんだ。

うつむいて黙っていたら、親父がまたベシッと頭を叩いた。

「謝れっ!心配かけたんだ!」

「そんな、弘一さん。叩かなくても……」

「いいから謝れっ!」

上から頭をグイッと押さえつけられて、頭を下げた格好になった。

「……ごめん、なさい」

「そんなやめて!無事ならそれでいいの。本当に良かった……。ねえ、翔太くん!ご飯出来てるよ?オムライスだよ?」

「……」

オムライスは好きだけど……。

昔、母親は親父とうまくいっていて機嫌がいい時にオムライスを作ってくれた。

俺は母親の作るオムライスが大好きだった。外で食べる味とは何かが違っていた。それになにより、オムライスを作った時の母親は幸せそうだった。

「はい、どうぞ」ってオムライスを出してくれた母親の微笑みは輝いて見えた。

オムライスは母親と親父の仲の良さを示すバロメーターのようなものだったんだろう。

今思えば、オムライスを好きだったのは親父だったんだ。母親は俺のために作ってくれていたわけじゃなかったんだ。

母親が出ていく前の半年間、親父の帰りは毎晩遅く、休日も家に寄り付かなかった。
たとえ家にいたとしても、二人は喧嘩ばかりしていた。

当然、オムライスは一度も出てこなかった。
< 115 / 259 >

この作品をシェア

pagetop