残業しないで帰りたい!
そして両親は別れ、母親が弟を連れて出ていった後、入れ違いのように里美さんがやって来た。
里美さんは母親よりずっと若くて、大人しそうな人だった。
「これからはこの人がお母さんだからな。お母さんって言うんだぞ」
「よろしくね、翔太くん」
里美さんは、はにかんでそう言ったけど……。
そんなこと言われても、ピンと来ないよ。
急に知らない女の人をそんな風に呼べるわけ、ないじゃない。
俺は気持ちの収まりがつかなくて、ずっと里美さんと目をあわせようとはしなかった。
里美さんが家に来てからは、時々食卓にオムライスが出るようになった。里美さんの作ったオムライスは不思議と母親が作った味とよく似ていた。
母親の所から連れ戻された夜に出されたオムライスも、不思議と懐かしい味がした。ついさっき会えなかった母親のオムライスの味……。
不思議な感覚だった。
そして、母親でもないのに母親と同じ味のオムライスを作る里美さんのことをますます疎ましく思った。
里美さんは皿を片付けた後、親父が風呂に入った隙を見て俺にこっそり声をかけてきた。
「翔太くん、時々お母さんに会いに行ってもいいんだよ?お父さんに頼んであげようか?」
その言葉はちょっと意外だった。里美さんは俺が母親に会いに行くのを面白くないだろうと思っていたから。
正直かなり心が揺れた。
でも、俺は意地を張って突っぱねた。
「もういい」
俺はうつむいて首を振った。