残業しないで帰りたい!

顔を上げると、遊馬は小さな段ボール箱を抱えて立っていた。段ボールにしてはかなり小さい古びて汚れた箱。

「もうあの家取り壊すからさ、今片付けてるんだけどね、片づけてたら押し入れの奥からこれが出てきたんだ。兄貴のだから返すよ」

遊馬は箱を少し持ち上げて見せてから、そっとテーブルに置いた。

「俺の?……俺あの家に住んだことないけど」

かなり幼い頃、祖母の家に遊びに行った時に描いた絵とかだろうか?それとも写真?

そんな、返すとか言われても困るなあ。
小さな箱とはいえ、段ボールだよ?持って帰んのめんどくさい。

乗り気じゃないまま、ガサゴソと箱の蓋を開けて覗き込む。
でも、そこには意外な物が入っていた。

パッと見たところ、最初は何だかわからなかった。ノートみたいなものがビッシリ几帳面に並んでいる。

でも、薄い冊子の消えかけた背表紙を見て、それが何なのかやっとわかった。

『漢字の書き取り』
『算数 たし算・ひき算』
『算数 かけ算・わり算』

……ドリルだ。

背表紙に手をかけて一冊をスッと取り出した。

懐かしい……。

青い表紙に動物の絵が描いてある。そうそう、表紙はこんな感じだった。

裏返すと、子どもの頃の俺の汚い字で『藤崎翔太』って書いてある。
子どもの頃、名前を書くとどうしても『翔』の字だけがでかくなったことを思い出した。

これは間違いなく俺のドリルだ……。

「俺、勉強嫌いだったからさ、ドリルなんかやった記憶なくってね。おっかしいなーって思って名前見たら兄貴のだったから、やっぱり!って感じだったよ。お袋、ずっと大事にとってたんだな」

「……」

どうしてこんなもの、とってたんだよ?
俺のことは捨てたんだろ?
< 118 / 259 >

この作品をシェア

pagetop