残業しないで帰りたい!

「遊馬ーっ、腹減ったー」

大きな声を出すと、遊馬が奥から顔を出した。

「あれっ?もっと感傷的になって物思いに耽るのかと思ったんだけど……」

「んー?まあ、ちょっとはね。でも、むしろ前向きになったかな。……ありがと」

「泣いた?」 

「泣きません!」

「えー?ホントにー?つまんねーの。……まあいっか。じゃあさ、いつもの卵のヤツ、作ってやろうか?」

「うん、いいね」

遊馬の店ではうまいピザを食べ、うまいワインを飲み、そして小さな段ボール箱を手土産にもらった。

俺は母親と似ている。
のんびりしているところ。遠くから見てるだけのところ。

のんびりしているからこそ、遠くから見ているだけでもいいのかもしれない。

そもそも俺は青山さんのことだって、のんびりした雰囲気に惹かれたんだ。彼女と一緒にいたら、素のままのんびりした自分でいられるんじゃないか、なんて思ったんだ。

彼女と一緒にいたい?
それなら、自分から動かないといけない。

……さて、どうしようか。

……。

……?

どうすんの?

声かける?
……それしかないよなあ。

どのタイミングで?

……。

はあ……。
困ったなあ。

俺、今まで自分から女の子に声をかけたことなんてないから、どうしたらいいのかよくわかんないよ。超緊張しそう。

それに声をかけるような接点もないし。

いやいや!接点がないなら作るんだよ!

……どうやって?

……。

……?

俺って中学生レベルだ。考えが堂々巡りをしてる。

こんなオッサンが何やってるんだか。
情けないなあ。

でも、こんな情けない俺にも彼女に声をかけるタイミングは突然訪れた。
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