残業しないで帰りたい!
そして見本市を目前に控えた10月下旬、営業支援係の北見さんが産休に入った。
北見さんが産休を取得する話はだいぶ前から出ていた。北見さんが休みに入ったら、誰かが代わりに仕事をしなければならない。
だから前々から高野には声をかけていた。
「北見さんいなくなったら忙しくなるけど、アルバイト雇わなくていいの?」
「振り分けるから平気ッスよ」
高野は軽くそう答えた。
「ホントに平気?負担になるんじゃない?誰か雇いなよ」
「大丈夫ですって!」
「……」
高野、ずいぶん頑なだね?
手続きがめんどくさいの?
青山さんに負担をかけるようなことをしたら、許さないからな。
そう思っていたのに。
結局北見さんが休みに入った途端、青山さんと白石さんは少しずつ残業するようになってしまった。
青山さん、無理してないといいけど……。
白石さんだって、今まで一度も残業したことがなかったのに残っているし。
とはいえ、彼女たちの残業は見回りをする時間まで残るほどではなかった。
遅くても6時半というところだろうか。
残業の見回りは1回目は7時頃、2回目は8時頃に行く。そして基本的には8時の段階でみんなには帰ってもらう。もちろん帰らないヤツもいるけど。
もっと早い時間に見回りしないと青山さんには会えないなあ。なんて思うくらいなら、素知らぬ顔で早い時間に見回りに行って、青山さんに話しかければいいのに、根性なしの俺は結局それすらできずにいた。
俺、全然変わってなくない?
誰よ?覚悟を決めるとか思ったヤツ!
でも……。
その時は突然やって来た。
人事課のパソコンは社員が出勤したり退勤する時に通すカードリーダーからダイレクトに情報が来るから、社員の動向がわかるようになっている。
現在、時刻は午後7時。そろそろ見回りの時間なんだけど。
パソコンの一点をじっと見つめる。
……青山さんがまだ帰っていない。