残業しないで帰りたい!
『ごめんね』と言ったら、急に背中が軽くなったような気がした。
「い、いえ……」
首を振ってそう言ったけど、香奈ちゃんはぽろぽろと涙を落として泣き始めた。
やっぱり、今でも心に残ってたんだ?
私の付けたその傷は、ずっと香奈ちゃんの中にあったんだよね?
「私、香奈ちゃんがそんなに気にしてたなんて知らなかった。ホントにごめん」
知らなかった、なんて私は嘘をついた。
多少丸くなったとはいえ、香奈ちゃんを傷付けた自覚があったなんて認めるのは、くだらないプライドに引っかかって、なんだか悔しくて、私は知らなかったフリをした。
本当にごめん。
ごめんね、香奈ちゃん。
傷付けて、本当にごめん。
あの時私、本当にバカだった。
私も若かったんだよね。
彼のことが大好きで。彼に私のことだけを見てほしくて。
香奈ちゃんがどれだけ私に気を遣ってくれてたのか、私、全然わかってなかった。
香奈ちゃんは子どものくせに、お父さんを独占しないで、諦めるところは諦めて、私に彼のことをいっぱい譲ってくれていた。
本当はもっとお父さんに甘えたかったでしょ?もっと一緒にいたかったでしょ?
親子の愛と男女の愛は違うのにね?
それなのに、私は一人で勝手に嫉妬心を燃やして香奈ちゃんに張り合っていた。男の取り合いのつもり?なんて勘違いして。
「……優香さん、本当にもう気にしてません。だから大丈夫です」
「そう?」
「はい」
顔を上げた香奈ちゃんは、不思議とすっきり爽やかな顔をしていた。
その顔を見たら、なぜか私の罪悪感も薄くなって空気に混じって消えていくような気がした。
私たちがお互いにこっそり秘密にしていた、小さなしこりのようなわだかまりは、少しは解消したのかな?
それはこのイケメンがずかずか入り込んできたおかげ?
うーん……、なんか納得いかない。
負けず嫌いで懲りない私は、この問題がなんとなく解消されたのはこのイケメンのおかげなのかと思うと、それはそれでなんか悔しくて、イケメンに仕返ししたくなった。