残業しないで帰りたい!

足音を殺して静かに営業課を覗くと、まだ青山さんは一人ぽつんとパソコンに向かって黙々とデータをまとめていた。

ずいぶん時間かかってるなあ。
どこまで出来たの?

息を潜めてそーっと近づく。

彼女の髪が、彼女の肩が、こんなに近くに見える。
また息が乱れてきた。もう、超ドキドキだ。

心臓がバクバクして、思わず漏れそうになる息を我慢した。

俺、さっきと同じことを繰り返してる……。
イヤになるなあ、己の精神年齢の低さに。

あーあ、もう開き直ろう。
男の心は一生少年なのさっ!

よくわからない言い訳を自分にしながら画面を覗くと、だいぶ進んでいる様子。
お?後半戦もだいぶ終わってるじゃない?

あとちょっとだね?

……頑張ってるから邪魔はしないでおこう。

抜き足差し足、営業課を後にした。
もう一度、販売促進課を覗くともう全員帰って誰もいない。

よっし!
つまりこれで俺と彼女は社内に二人きりってことだ!

……。

だからって何があるってわけでもないんだけど、やっぱりちょっと嬉しい。

はあっ……。

また自分のデスクにベタッと伏せる。
一生懸命パソコンに向かってた青山さん、可愛かったなあ。

彼女が残業をすると近づくチャンスにはなるんだけどね。でも、高野のヤツには注意しておこう。

青山さんは北見さんが休みになって、ただでさえ仕事が増えてるのに、今は見本市もある。
遅くまで残って、帰り道で何かあったらどうするんだ!やっぱり残業してはいけません!

だから、さすがに次は話しかけよう。
「早く帰りなさい」とかでもいいじゃない。
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