残業しないで帰りたい!

「終わったんなら、さっさと帰んなさい」

「……はい」

彼女は訝しげにうなずきながら、俺のネームプレートを見て、それからバッと俺を見上げた。

ああ……。

やっぱり俺のこと、知らなかったのね?
名前も知らなかった?

悲しい……。切なすぎる。苦しいよ。
これって想像以上にショックだな。

でも、俺も付き合ってた女の子の名前を憶えていないなんてしょっちゅうだった。
……酷いことをした、なんて今さら思う。俺はホントにろくでなしだった。

彼女に名前を憶えてもらえていないのは自業自得。きっと罰があたったんだ。

それにしても青山さん?
ずいぶんじっくり俺を見上げているけど……。

なに?
どうしたの?
ドキドキするよ。

顔に何か付いてる?
それとも変な噂でも聞いた?

……。

君の透明な瞳が俺を映している……。

……そんな瞳、ドキドキして胸が締め付けられる。

「なあに?」

あんまりじっくり見つめられて、ドキドキに耐えられなくなり、困って変な言い方をしてしまった。

「あー、いえ、えっと、藤崎課長は何をしにこのフロアに来られたのかなと思って……」

「何って、見回りだよ」

面倒くさそうに言って頭をかいた、そんな自分の行動がよくわからない。

やる気のない素振りをして見せて照れ隠しをしているのか、のんびりした本性をさらけ出そうとしているのか。

「見回り?」

「そっ!君みたいに残業してる輩に声をかけて追い帰してんの」

「はあ……」

「うち、残業削減に力入れてるんだけど、知らない?それにさ、ブラック企業だなんて騒がれて調査されても困るからね」

「そう、なんですね」

どうしよう!
たいへん!
俺、青山さんと普通に会話してるっ!
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