残業しないで帰りたい!

そんな顔をするなんて……。

紅潮した耳。
じんわり染まる頬。
斜め下を見て揺れる瞳。
小さく噛み締めた唇。

そんな顔、見ちゃったら……。

気持ちの歯止めがきかなくなる。
想いがあふれて止められない。

その耳に触れたい。
その頬を撫でたい。
思いきり抱き締めてしまいたい……。

吸い寄せられるように、少し降りた階段をもう一度登って青山さんの目の前に立った。

これは今までで一番近い接近。
君を抱き締められる距離。

……いや、ダメだよ。
今触れたら、また怖がられるだけだ。

だから触っちゃダメ……。

拳を握って触りたい衝動を堪えるだけで、指先から全身に痺れが走った。

……苦しいよ。
せつなくて、ひたすら彼女をじっと見つめた。

息も届きそうな距離に青山さんはかなり戸惑っている。

こんなに近づいたら怖いかな?

そう思ったのに。
青山さんは突然スイッチが切り替わったように戸惑いがなくなり、俺のネクタイをじーっと見始めた。

……?

ネクタイ、変?

それとも……。

青山さんって、ちょっと変わってる?
さっき俺をじっと見ていた様子といい、ちょっと変わってるよね?
観察するのが好きなのかな?

もしかして、観察魔?

やっぱり君は男を知らないんじゃない?
ネクタイ、近くで見たことないんでしょ?
だからそんな風に俺を観察してるの?

俺のネクタイを茶色い瞳でじっと見ている青山さん……。可愛すぎる。

ああ……、やっぱり抱き締めたい。
力いっぱい抱き締めたい。
腕の中に君を感じたい。

……いやいや!
だから、ダメなんだってば!

はあっ……。
我慢するだけで胸の奥が痛む。痛みに悶えたいけど、じっと耐える。
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