残業しないで帰りたい!

ため息をついて、非常階段の手すりにぐでんと寄りかかる。
日に日に吹き付ける風が冷たくなってきた。

あれから毎日しつこく7階の非常階段で煙草を吸っているけれど、青山さんは一度も来ない。

そんなにうまくはいかないか……。

来てくれるんじゃないかなんて、期待したりして。俺ってバカだな。

君が俺に興味を持っているんじゃないか、なんて思い違いも甚だしい。

……そりゃそうだよ。
俺みたいなオッサンに君が興味を持つわけがないのに。

なに勘違いしてるんだか。

はあ……、戻ろ。

階段を降りて4階に戻ると、遠くに久保田さんが見えた。

久しぶりだな、久保田さん。
見本市があるから来てるのかな。
相変わらず目立つねえ。

応接室で商談?
久保田さんはいいなあ。
営業やらせてもらって。

そういえば俺……、あの人と付き合ってたんだよな。

最初からうまくいかないってわかっていたのに付き合ってしまった俺が悪いんだけど。
あれから一度も社内の女の子とは付き合わなかった。

社内で付き合うと、いろんな噂を立てられたり詮索されたりしてめんどくさい。だから、社内で付き合ったのは久保田さんだけだ。

他に社内で付き合わなかったから、久保田さんは俺の特別な存在なんじゃないかって詮索する人もいたけれど、そんなことはない。

いや……、少しは特別だったのかもしれない。社内で付き合う以上は真面目に考えようと思ってたし。
でも、そう思ったのは久保田さんを好きだったからではなく、会社での体面を保つことを考えてのことだった。

そんなの、うまくいくはずがない。だからいつものパターンでフラれたんだ。

まあ、今となっては別に話すこともない。
久保田さんには声をかけることもなく、静かに人事課に戻った。
< 151 / 259 >

この作品をシェア

pagetop