残業しないで帰りたい!
ああ、お願いだから目を覚まして。
キスをしたら目が覚める?
いやいや、そういうことじゃないんだよ。
「きっと貧血だからすぐに起きますよ」
青山さんから離れない俺に、沢口さんが元気付けるように声をかけてきた。
「でも、こんなに目を覚まさないなんて、頭とか打ってないかな?救急車呼んだ方がいいんじゃない?」
「もう少し様子を見たらどうです?」
「でも……もう2分はたってるのに目が覚めないよ」
「たかが2分ですよ?すぐ起きますって」
「はあっ……このまま目が覚めなかったらどうしよう……」
「大丈夫ですよ。課長さん、心配性ですね?」
心配性?
この状況で心配しないわけがないじゃない!
むしろアナタはなんでそんなに落ち着いていられるんですか?
それともこれってよくあること?
「青山さんってよく倒れるの?」
「いえ、私はこんな場面に遭遇するのは初めてです」
「……」
じゃあなんでそんなに落ち着いてるのよ?
「よくこの状況で落ち着いていられるね?」
クールな沢口さんにイライラしてそう言うと、沢口さんは口元をわずかにキリッとして見せた。
「こういう時こそ一歩引いて落ち着くべきですよ。できることは少ないんですから、冷静に様子を見て判断すべきでしょう?」
「……」
まあ……その通りだけどさ。
もしかして、おろおろしてるのは俺だけか?
沢口さんはクスッと笑った。
「でも、課長さんの私たちへのご指示は的確だったと思いますよ」
うーん、それってなんか管理職としての俺を採点されてるような、慰められてるような……。
まあ、沢口さんは常にそういう目で見てるのかもしれないな。
沢口さんは俺が履歴書を見て面接をしてから営業支援係に配属したアルバイトだ。
沢口さんは前の会社では総合職だったらしい。年齢からしても管理職級だったんだろう。
元管理職級をアルバイトに雇うなんて、とも思ったけれど、沢口さんの役割分担を理解している所が良いと思って雇った。
沢口さんは子育てのために退職したと言っていた。
もったいない気もする。
まあ、会社の社風もあるだろうし、家庭の事情とか働き方の希望もあるのかもしれないから、何とも言えないけど。