残業しないで帰りたい!

「あの、課長さん……。そこにいると掃除できないんで、どいていただけませんか?」

沢口さんに言われて下を見ると、俺の足元の絨毯にも血が付いていた。
でも青山さんから離れたくない……。

「ここは後にして」

「ええー?……もうっ!仕方ないですね。後でどいてくださいよ」

「はいはい、後でね」

チッと舌打ちが聞こえた気がしたけれど、気にしない。

そんなことより、青山さん……まだ意識が戻らない。
握る手に力が入った。
お願いだから、目を覚ましてよ。

そういえば。
目が覚めた時、俺が手を握っていたら青山さん怖がるかな?

……。

本当に目が覚めるんだろうか。

「青山さん……」

不安になってもう一度声をかけた。

「青山さん、起きてよ……。青山さんっ」

心なしかさっきより頬に血の気が戻っている気がする。

瞼が少し動いたような……。

もしかしてっ!
気がついた!?

ハッとして必死に声をかけた。

「青山さん!青山さんっ!」

青山さんは小さく息をして細く瞼を開けると、眩しそうにまた目を閉じた。

「あっ!青山さんっ!」

閉じないでっ!目を開けてよ!

青山さんは俺の声に答えるように薄く目を開けた。茶色い瞳がわずかに揺れている。

ああ……気が付いた!

でもまだ虚ろ。
もっとちゃんと目を覚まして!

「気がついた?青山さんっ!わかる?」

「……かちょう?」

君の声!その声が聞きたかったんだ!
君の声が聞けて良かった……。
< 160 / 259 >

この作品をシェア

pagetop