残業しないで帰りたい!
愛してる、とか思っているわりに、俺は香奈ちゃんに正直に言っていないことがある。
彼女は付き合う時、俺が過去にたくさんの女と付き合ってきたんじゃないか、なんて疑ってたけど、あれはずばり当たっていた。
女の勘?
でも俺は、「たくさんってことはありません」なんて答えた。まあ『たくさん』って言葉は人それぞれの主観によるものだからね。
本当は付き合った女の子の人数なんて憶えていない。ただ抱いただけの女なんて、もっと憶えていない。
でも、香奈ちゃんに嫌われたくなくて、たくさんじゃない、なんて言った。
純真無垢な香奈ちゃんが、俺のただれた過去なんか知ったらどう思うんだろう。
……やっぱり嫌いになる?
……。
言えない……。
絶対に言えないっ。
まあ、あえて言う必要はないさ。
そんなことを思って、秘密というか、胸の奥にしまったというか、昔のことはなかったことにして、俺は香奈ちゃんとの幸せな時間に浸っていた。
それなのに……。
久しぶりに新田からメールが来た。
『明日仕事でそっちに寄るから、可愛い彼女に会わせろよ』
『来なくていい』
速攻で俺は返事を送ったけど、返事は来るはずもなく……。
アイツ絶対に来るな。
新田は横浜で仕事なんて二の次で、香奈ちゃんを見に来たいだけだ。
そもそも新田は、俺が女の子の逆ナンに全く乗らなくなったから、猛烈につまらなそうにしていた。
そして何を心配したのか、怪しげな栄養ドリンクを押し付けてきた。
「この精力剤、マジでチョー効くぜ?翔ちゃん元気ないからあーげーるっ!」
「……」
新田、それは誤解だ……。でも、めんどくさいから否定しないで放置した。そして黙ってそのまま小瓶もありがたく頂戴した……。
新田はいいヤツだ。
でも、デリカシーはない。
だから、香奈ちゃんと付き合い始めてからも、俺は新田には言わなかった。
だって、絶対に会わせろって言われるもん。
新田になんか会せたら、どんな情報が流出するかわかったもんじゃない。