残業しないで帰りたい!
親父は自分の女に、子どもだった俺の面倒を見させようとしていたんだと思う。
でも、親父に夢中になっている女たちにとって、俺はいらない邪魔者か、親父に取り入るために利用する存在でしかなかった。
俺ときちんと関わろうとしたのは里美さんだけだったんじゃないだろうか。
まあ、俺だって親父の女となんか話もしたくなかった。
だから中学生にもなると、部活に没頭したり塾に行ったりして、家には極力近寄らなかった。今考えると、家に近寄らない方法としてはずいぶんまともな方法だったと思う。
あんな環境で育ったわりに、俺ってけっこう真面目な学生だったなあ。
親父の女たちは、親父の前ではちゃんと飯を作っても、俺だけの時は菓子パン1個が机に置いてあるなんてざらだったし、何もない日も多かった。
あの頃から俺はカップラーメンばかり食べていた気がする。
別に、親父の女が作った飯を食いたかったわけじゃない。
でも。
もしかしたら少し憧れていたのかもしれない。
温かい食事の並んだ食卓で、楽しく過ごす団らんに、俺は憧れていたのかもしれない。
だから、香奈ちゃんがうちに来て、美味しい料理を作ってくれて、向かい合って座って楽しく話しながら食べる夕食は、俺にとっては明日世界が終わってもいいくらいの幸せなんだ。
……いや、世界が終わっちゃダメなんだけど。
延々君と幸せな時間を過ごしたいから。
香奈ちゃん、そんな俺のこと、わかってる?
君と一緒にいることが幸せでたまらないってこと、わかっているのかなあ。