残業しないで帰りたい!
まだごまかせるだろうか……?
隠し通せる?
いや、さすがに難しくないか?
……香奈ちゃん。いきなりあんな話、戸惑ったよね?
どう、思った?
俺のこと、嫌いに、なった……?
ほの暗い不安が腹の底から渦を巻いて這い上がってきた。鼓動が胸を激しく打ちつけて気持ちが悪い。
ふと、香奈ちゃんが口を開いた。
「……翔太くん?」
「ん?」
「……千人って、何?」
「!」
ああもうっ!それは違うんだ!
「ちょっと外に出ようか?」
グイグイと香奈ちゃんの肩を押して非常階段に出た。
ヒヤッと冷たい金属製のドアノブを押して扉を開けると、凍りつくような冷たい風が吹き付けてきた。
こんな寒い所に長居はできないな。香奈ちゃんが風邪ひいちゃう。
「香奈ちゃん、寒くない?」
背広を脱いで肩に羽織らせて話しかけても、俺の言葉なんか聞こえないみたいに香奈ちゃんはまっすぐ俺を見た。
「ワンナイトラブって……、行きずりの人って意味だよね?キャッチアンドリリースって何?翔太くん……千人って……?」
「違うんだ!あれは新田の悪い冗談!」
「翔太くん、行きずりの女の人がたくさんいたの?そういうことだよね?隠さないで、本当のことを教えて!」
ああ……。
もうダメだ。
ごまかすなんて、できない。
香奈ちゃん……俺のこと、軽蔑してる?
嫌われてしまっただろうか?
俺から離れて行ってしまうんだろうか?
イヤだ……。そんなのイヤだ!
絶対に離したくない!
逃げられないよう、咄嗟に背広ごと彼女を強く抱き締めた。
「……嫌いに、なった?」
すると香奈ちゃんは、腕の中から逃れようと俺の胸を押してもがき始めた。
「!」
香奈ちゃん……、俺から離れたがってるの?
俺のこと、もう嫌い?
……ダメだっ!
俺から離れるなんて、そんなの許さない!
嫌われても絶対に離さない!
もがく彼女の動きを封じるように、もっと強い力で腕の中に閉じ込めた。