残業しないで帰りたい!
すれ違う女と適当に関係を持って刹那的に過ごすことで、あえて愛情とかけ離れた所に身を置こうとしていたのかもしれない。
でも本当は、ぶ厚い壁の中に閉じこもって、愛することも愛されることも恐れて、ひたすら目をそらしていたんだ。
それなのに。
君はそんな俺が張り巡らせたぶ厚い壁を空気のように通り抜けて、突然俺の懐に飛び込んできた。
いや……、俺が勝手に射抜かれたんだ。
君に一目惚れして、君を遠くから眺め、君と話をし、恋人になって、君は俺にとって何よりも大切でかけがえのない存在になった。
「……確かに昔の俺は、自分のことを大切だなんて思わなかった。でも、今は違うよ。俺、変わったんだ。君と出会って、俺は変わったんだよ」
君と出会って、君が俺を想ってくれて、初めて地に足が着いた気がしたんだ。自分の人生の重みを感じた瞬間。自分を大切だと思った瞬間。
「翔太くん、自分のこと、大切になった?」
「うん」
「……私ね、翔太くんが私のこと大切にしてくれるから、自分のことを大切にしようって思えるようになったの。だから、私も翔太くんのことを大切にして、翔太くんに自分のこと大切だって思ってほしい」
君に大切にされるなんて、俺は本当に幸せだよ?君はすぐそうやって、俺が調子に乗るようなことを言うんだなあ。
「ありがとう。大丈夫。君が俺を想ってくれるから、君がそばにいるから、君を守りたいから、俺は君も自分を大切にしたい、と今は思ってる」
うつむく香奈ちゃんの顔を見たくて頬を持ち上げたら、堪えていたような大粒の涙がぽろっと頬を伝ってこぼれ落ちた。