残業しないで帰りたい!
香奈ちゃんはポツリと呟いた。
「……いいのかな」
「え?」
「平日も、なんて……、そんなに翔太くんちに行ったら迷惑じゃない?」
この人何言ってんだろう。
「そんなわけないじゃない」
どうしてそんなこと思うの?
香奈ちゃん、時々変に遠慮するんだよなあ。
後ろから抱き締める腕に力を込めた。
「香奈ちゃんがうちに来て、向かい合って一緒にご飯を食べる時間は最高に幸せなんだ。だからね、週末だけじゃなくて平日も時々でいいから来てほしい。迷惑なわけがないし、そもそも俺がお願いしてんだよ?」
「……うん」
香奈ちゃん、どうして迷惑だなんて思うんだろう。どうして俺にまで遠慮するの?
これまでも一歩引いた空気は漂っていた。
香奈ちゃんは誰にでもどこか遠慮しながら関わっていると思う。
俺にだけは遠慮しないでほしいのに。
香奈ちゃんにしてみたら、遠慮していないつもりなのかもしれないけど。
当たり前のように俺んちの台所を使ってくれるようになったし。それだってずいぶん時間がかかった。
最初は「あれ使っていい?」「これ使っていい?」っていちいち聞いてくるから「何でも好きに使っていいんだよ」って何度も言って、やっと最近になって自由に勝手に使ってくれるようになったんだ。
それでもやっぱり、遠慮というか距離を感じる。彼女の独特なバランス感覚なんだろうか。
俺との関係ではバランスなんか取らなくてもいいんだけどな。
富士山を見ていた香奈ちゃんが、俺の腕にそっと手を添えた。
「私、翔太くんのことはどんな翔太くんも全部大好きだよ」
「うん……?」
急にどうしたの?