残業しないで帰りたい!
『藤崎!お前のこと神だと思ってたんだけど、100人程度?勝ったな!オレ?知りたい?仕方ねーな!俺はねー187人!」
聞いてないし!それに君、女の人数、数えてんの?凄いね?ある意味スゴいよっ。
「それに翔ちゃん、昨夜の『あんなに』ってどんだけしちゃったの?詳しく教えてちょ!』
思わず額を手で覆う。恥ずかしい……。一番聞かれたくない奴に聞かれてしまった。
「……教えない」
フーッとため息が聞こえて、下から煙草の匂いが漂ってきた。
「そんなことよりお前、横浜支社の話、聞いてるんだろ?」
「……あのさ、電話じゃなくて直接話そうよ」
電話を切って下の階に降りると、俺の顔を見た途端、待ちかねたように新田は話し始めた。
「こんな鉛筆みたいなビル、さっさと手放そうって話。お前も聞いてるんだろ?」
「うん、まあ。遠くの方から聞こえて来るね、そんな噂」
俺もカチッと煙草に火をつけて煙を吐いた。
その噂話、噂ではなく本当はかなり現実的な話だ。
「そんなにのん気でいいのかい?」
「俺にはどうしようもないからね」
「そんなこと言って、お前も報告する立場にあるんだろ?」
「まあ……、ね」
早期退職勧告リストを作れと言われているのは全支社の人事課長だけど、横浜支社は少し事情が違う。
横浜支社の成績は非常に悪く、支社そのものが存続の危機にあるからだ。
わざわざ横浜に支社をおく必要があるのか、東京本社に吸収してもなんら問題ないのではないか、というのが今のお偉いさんの考え方だ。
まだきちんとした試算は出ていないけれど、横浜支社を残すという選択肢より、もはや流れは誰を東京に吸収し誰を切るのか、という選択肢になりつつある。