残業しないで帰りたい!
社長はいつも、白くてふわふわした犬を連れていた。当然、寿司屋にもその犬を連れて行き、有無を言わせず座敷に上がらせていた。
現在本社の営業本部長で、俺を横浜に飛ばした張本人の越川さんは当時40歳くらいだった。俺からみたら超ベテラン。
だから、松永さんと一緒に社長の横に座って然るべきはずなのに、社長は寿司屋に行くと松永さんと俺と犬しか座敷に上げなかった。
「お前は犬以下だからダメ」
越川さんをタタキに座らせて社長が言った台詞は今でも忘れられない。越川さんだって忘れられないだろう。
今のご時世では考えられない台詞だけど、当時の社長はこれが当たり前だった。
女子社員の腰に触るのも当たり前だったし、越川さん以外にも、社長に怒鳴られて資料を投げつけられるなんて光景は何度も目撃した。
大人の社会とは恐ろしい所だと思った。
でも同時に、だからと言って委縮してはいけないとも思った。委縮したらきっと俺も同じ扱いになる。
そのおかげか否かは不明だが、俺は常に社長にヒイキされ、可愛がられ続けた。
越川さんをはじめとした諸先輩方が俺に積年の恨みを抱えているのは、この辺りが原因だ。
怒鳴られたことなんて一度もないし、就職活動だって楽をさせてもらった。
社長は「入社試験を受けるだけ入れてやる」と俺に言い、言葉通り本当に入社させてくれたから。
でも正直、ヒイキされすぎるのもやりにくい。
社長が気分で蹴り倒す社員は皆、俺の敵になってしまう。
俺が悪いの?
違うだろ?
なんでみんな俺が悪いみたいに扱うんだよ。
若い頃はそう思ってイライラしていることが多かった。