残業しないで帰りたい!
あの日はたまたま横浜で研修があって、営業課はそろって横浜に来ていた。そうしたら、松永さんがせっかくだから藤崎んちに行こう、なんて言い出したから大変なことになったんだ。
まさか、そんな日に限って香奈ちゃんが来るなんて……。今まで遠慮して、一度も自分からは来たことなかったのに。
それも急に来るなんて俺を驚かそうとしたの?
それはそれですごく嬉しかったんだけど、タイミングってすごいなあ。
寿司の出前が来たと思って玄関に出た小田ちゃんと香奈ちゃんが鉢合わせするなんて。
でも、女の子が出たからっていきなり逃げるなんてあんまりだよ。
俺は一瞬で君が勘違いしたってわかった。
なにしろ君は思い込みが激しいからね。
あんなに呼んだのに振り返ってもくれなくて、でもエレベーターでうつむく君を見て、泣いているってわかって胸が痛んだ。
ここで君を逃したら二度と取り戻せない。
急にそんな強烈な不安に襲われて必死になって階段を駆け下りた。
少し乱暴だったけど、やっとマンションの下でガバッと君を捕まえた時、どれほど俺がほっとしたか、俺の胸の痛みなんて君は知らないんだろう?
「……寂しかったの」
泣きながら香奈ちゃんがぽつんと言ったその台詞は、喉から胸の奥まで深く突き刺さった。
君も寂しかった?
俺も寂しかったよ。死ぬほど寂しかった。
愛する君に寂しい思いをさせるなんて、本当にごめん。ごめんね、香奈ちゃん。
やっぱり君と一緒にいたい。
ずっとそばにいてほしい。
だから今ここで言おう。
またマンションの下なんてどうしようもないシチュエーションだけど。
でも、今言うのが一番だと思うんだ。
むしろ、今しかないと思うんだ。