残業しないで帰りたい!

俺は彼女の両手を握り、大きく息を吸った。

「俺と結婚してください」

一度息を吐いて、もう一度吸った。

「君のことを大事にします。だから俺と結婚して、一生そばにいてください」

真剣にまっすぐに伝えた。
本当に緊張した。
自分の鼓動が耳に響くなんて久しぶりだ。

俺の言葉を聞いた香奈ちゃんは、驚いて動きが止まってしまった。
そのわずかな沈黙にドキドキする。

それでも香奈ちゃんは、ゆっくり「はい」とうなずいてくれた。

良かった……。
本当に良かった。

ほっとして力が抜けた。

力が抜けたら、現状が冷静に見えてきた。

俺はまたこんなところでプロポーズなんかして、本当にどうしようもないな。
こんなところでプロポーズされて、よく香奈ちゃん、断らなかったね?

「告白はファミレスで、プロポーズはマンションの下なんて、どっちもかっこ悪いなあ、俺」

すると香奈ちゃんはにっこり笑った。

「私はそういう翔太くんが好きなの」

「そうなの?」

「そう!」

顔を見合わせてふふっと笑う。

君は俺を悪趣味だなんて言うけれど、君の方がよっぽど悪趣味なんじゃないのかな。

俺は君と出会えて本当に幸せだよ。

君と出会えていなかったら、俺はいったいどうなっていたんだろう。

地に足がつかないまま、流されて自分のことも他人事みたいにフラフラと生きていたに違いない。

君に出会えなかったら、辛い気持ちも寂しさも知らず、傷つくこともなかっただろうけど、生きる希望も知らなかっただろう。

俺は君と出会えて本当に良かった。
一生君のそばにいる。
だから一生俺のそばにいてほしい。
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