残業しないで帰りたい!
翌日、指輪を予約していたお店に連れて行き、彼女にはめた婚約指輪はピッタリだった。店員さん、なかなかやるね。
キラキラ光る指輪をつまんで彼女の左手を持ち上げ、その細い薬指にそっと指輪を通した時はさすがに緊張して息を止めた。
そして、指輪を見つめて涙を流した彼女を見て、一生この人を守ろうと思った。
俺はこの人を生涯守り抜きます。
そう誰とも知れぬ神に誓った。
もう神に誓ったから、結婚式は別にしなくてもいいよね?……なんてことにはならないわけで。
二人で式場を予約した後は、いろんな人に挨拶をしたり、打ち合わせがあったりして、あれよあれよと慌ただしく時間が過ぎていった。
そして、親父の所へ挨拶に行く日がきた。
「うちの親父に挨拶なんていいよ」って反抗してみたけど「そういうわけにはいかないよ!」と香奈ちゃんにたしなめられ、仕方なく親父の所にも挨拶に行くことになったのだ。
実家なんて何年ぶり?
親父に連絡するのはなんとなく癪だったから、里美さんを通して連絡した。
「この度結婚することになりました」と言うと里美さんは電話の向こうで、まるで自分の息子の事のようにキァアキャアとはしゃいだ。
里美さんには子どもはいない。親父と一度別れてまたくっついて。あんなに親父に振り回されたのに、どうして今でも一緒にいるのか全く理解できない。
そして、息子でもない俺にも親しく接してくれる。
不思議な人だ。
ちなみに、親父は出世魚みたいな男だ。
平社員から係長、課長を経て部長になり、役員になって最終的には社長になった。俺にはとても真似できないし、真似したいとも思わない。