残業しないで帰りたい!
学生の頃、親父に「就職先がなければ、コネでウチに入れてやる」なんて言われたけど、そんなの絶対にイヤだったから即答で断った。
そんなの願い下げだ。一生縛られて生きるなんて、ごめんこうむる。
俺は俺の道を行きたい。
おそらく親父もわかっていたんだろう。そんなにしつこくは言ってこなかった。
そして、就職して忙しくなったこともあり、俺はほとんど実家には近づかなかった。
久しぶりに来てみたら、いつの間にかマンションから立派な一戸建てに引っ越してるし。
もはや、ここは実家とは言えない。親戚が住んでいる知らない家だ。
「いらっしゃい。お久しぶりねえ。元気そうでなによりだわ!」
笑顔で玄関に出迎えてくれたのは里美さんだった。久しぶりに見る里美さんはだいぶ歳をとっていた。そして奥の部屋へ行き、久しぶりに会った親父はもっと歳をとっていた。
香奈ちゃんは奥に座る親父を見ると驚いた顔をして、俺の顔を見た。似てるって言いたいの?似てるのは見た目だけだよ?
「まあ、座りなさい」
親父にそんなことを言われてソファーに座った香奈ちゃんはガチガチに緊張していた。
「香奈ちゃん、大丈夫だよ」
小声でそっと囁いても、ウンウンとうなずくだけ。全然リラックスしてくれない……。まあ、親父の前じゃそんなの無理かな?
すぐに終わるから、少し我慢してね。
一通り紹介をして、香奈ちゃんが緊張しつつもきちんと挨拶をした後、いきなり里美さんが立ち上がった。
「あらあら大変!私、香奈さんにお伝えしなきゃいけないことがあるんだった!」
「えっ!?」
戸惑う香奈ちゃんの腕を引き上げる里美さん。
「翔太くん、香奈さん借りるわよ?」
「……はあ」
なんかわざとらしいなあ。こんなに久しぶりに会うのに、俺と親父を二人きりにしないでほしいんだけど。