残業しないで帰りたい!

慌ただしく二人が席を立った後、親父が腕組みをした。

「仕事はどうなんだ?」

「どうって……、まあ、それなりにね」

「それなりに、じゃわからない。どこまでいった?」

出世の話?そういうの、イヤだなあ。

「今はいちおう課長だよ」

「……そうか」

それだけ言って親父は黙ってしまった。親父からしたら、俺の歳でまだ課長なんて不満なんだろうな。

親父は少し考えてから口を開いた。

「まあ、お前はお前のやり方で頑張れ」

「え?ああ……うん」

なにそれ?

……意外だ。
俺を認めるような発言をするなんて。歳をとって丸くなった?

「お前はいつまでもフラフラしていたから心配していたんだ。身を固めるって聞いて、本当に安心した。いいお嬢さんみたいだし、良かったじゃないか」

……。

この人、こんなこと言うんだ。
いったいどうした?

「……まあ、ね」

「俺が言うのもなんだけど、お前はお前のやり方で家族を守れよ」

思わずフッと笑ってしまった。

俺が言うのもなんだけど、か……。
親父は自分が家族を守れなかったと自覚しているんだろうか。

……そうなんだろうな。
自覚しているから、こんなことを言うんだ。
親父がこんなことをいうなんて、やっぱり何もかもが意外だよ。

俺が知る限り、親父は後悔なんて一つもしてないって顔をしていた。でもその実、数知れない後悔をしてきたのかもしれない。

あれだけの出世をして登り詰めたんだ。得るものもあれば失うものもたくさんあっただろう。

俺はそんな親父を見て育ったし、親父が失ったものの中には俺の大切なものもあったから、俺は親父のようにはなりたくないと思うようになったんだ。

「うん。俺は、俺のやり方で生きていくよ」

「ああ」

なに?その穏やかな感じ。
本当に丸くなったな……。
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