残業しないで帰りたい!

だから、なんとなく流れで聞いてしまった。

「……親父、今でもオムライス、好きなの?」

「は?」

「里美さんが香奈ちゃんにオムライスの作り方を教えてたからさ。今でもオムライスが好きなのかなって思って」

「俺は別にオムライスなんか好きじゃない。好きなのはお前だろう?」

「……?」

自然と首を傾げた。

あれ?
どういうこと?

母親も里美さんも、親父のために作っていたんじゃないの?

俺……。
もしかして俺、勘違いしてた?

もしかして、母親は……俺のためにあのオムライスを作っていたの?

親父のためだと思ってたのに。
そんな勘違いをするなんて、親父への対抗心のせいだろうか。

……。

ああ。
知らなければ良かった。

そんなことを知ってしまったら、オムライスの乗った皿を俺の前に出した時の、あの母親の嬉しそうな笑顔を思い出して切なくなる。

さっきだって、母親が俺のために里美さんに頭を下げたなんて知りたくなかった。

そんなことを知ってしまったら……、母親が危篤の時に会いに行かなかったことをますます後悔するじゃないか。

「ところで、遊馬はどうしてる?」

「えっ?」

「料理人になったんだろう?」

「ああ。……元気だよ。店も繁盛してるし」

「そうか」

親父、遊馬のことも気になるんだ?
そういえば、親父は遊馬とずっと会っていないんじゃないんだろうか。遊馬の子ども、つまり孫にも。

「会わないの?」

「……会いたくないそうだ」

「ふーん」

なるほどね。
おそらく里美さんが気を利かせて連絡でもしたんだろう。でも遊馬に断られた。

それはそうだろうな。遊馬からしてみたら、自分を捨てた父親だ。会いたくないだろう。
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