残業しないで帰りたい!
「悪かったと思ってるよ。白石さんは何時まで一緒にやってたの?」
「私は……、定時までだよ」
「また合コン?」
白石さんは口をつぐんで急に黙ってしまった。
あれ?
昨日は合コンじゃなかったの?
沈黙する彼女を覗き込むように見つめた。
「……デート」
聞こえてきた小さな声に、今度は俺が目を開いたまま固まってしまった。
胸にドスッと杭を打たれたみたいな、鈍くて強い痛みを感じる。
今まで一番聞きたくなかった台詞。
でも、いつかは聞いたであろう台詞。
それにしたって、それを聞くのはこんな落ち込み気味な今じゃなくてもよかったのに。
だから俺は精一杯強がりをしてみせた。
「良かったじゃん。彼氏できたんだ?」
「別に彼氏ってわけじゃないんだけどさ」
「だって、デートだったんだろ?」
「んー、まあねー」
彼氏ってわけじゃない?まだ付き合うまではいってないってこと?
「そいつが付き合ってくれって言ったら、付き合うの?」
「うーん?そーだねー……、どうだろ。わかんない」
なんだよ、それ。
わかんないの?
「わかんないなら、デートなんかするなよ」
「わかんないからするの!その人けっこうイケメンだし、話も合うし、もしかしたら好きになれるかもしれないじゃん」
けっ、イケメンかよ!
その上話が合うだって?
ムカつくな。
「好きになれんじゃねーの?悪いけど俺、もう行くから降りて」
「え?あっ、……うん」
好きになれるかもしれない?なんだよそれ!
君の好きって、なんなんだ?
腹が立って、彼女の方に視線を送ることすらできなかった。
だから助手席を離れた時、彼女がどんな顔をしていたのか、俺は知らない。