残業しないで帰りたい!
その後、帰ってから香奈ちゃんが作ってくれたオムライスは本当に母親が作った、里美さんが作った、あのオムライスと全く同じ味と香りがした。
口に入れた途端ハッとして顔を上げたら、正面で俺を見つめる香奈ちゃんと目があった。
味って不思議だ。
舌に乗せた瞬間に時空を飛び越える。
「これは……どういうカラクリがあるの?」
「えへへ、ひみつー」
「教えてよー」
「教えなーい」
「ふーん……、まあいいよ。でも寝る前までに教えてくれないと酷い目に逢うよ?」
「……秘密だもん」
「そう?夜が楽しみだなあ」
俺頬杖をついてじっとり見つめると、香奈ちゃんは少し小声になった。
「……最近の翔太くん、ちょっとエッチじゃない?」
「ダメ?」
「ダメ……じゃ、ないけど」
そんなことを言って顔をそむけ、頬を赤らめる香奈ちゃんに思わず目を細める。
香奈ちゃんはいけない子だね。
そんな顔をしたら、こっちは煽られて何をしようか妄想を掻き立てられて大変なんだよ?
その後、何度もしつこくまとわりついて「教えて?」と言ったけれど、香奈ちゃんは口が堅くて全然秘密を教えてくれない。
里美さんと教えないって約束したの?
約束を律儀に守るのは感心だけど、俺、さっき酷い目に逢うよって言ったよね?
だから最終的にはベッドの中で「早く教えないとやめてあげない」と攻めたて、耐えられなくなった香奈ちゃんが何かを言おうとしたら、今度は言えないようにその吐息ごと唇をふさいでまた攻めた。
涙目で「いじわるだよ……」なんて囁かれると可愛すぎて、ますます意地悪したくなるんだ。
そんなわけで、結局秘密はわからずじまいだった。
でも、もう知らなくていい。
あの味は俺の母親から里美さんに引き継がれ、愛する香奈ちゃんに引き継がれた。
この不思議な縁はこれからもどこかへ繋がっていくんじゃないだろうか。
なんとなく、その秘密を俺は知ってはいけない気がする。
俺がその秘密を知って、その系譜に無粋な男が入り込んだら不思議な縁は途切れてしまうような気がする。
だから、俺は知らなくていいんだ。